「ミルウォーキー・プロトコル」狂犬病の治療に希望の光?ブラジル2人目の生存者

ブラジル北部のアマゾナス州は9日、バルセロス市在住の14歳の少年が狂犬病から生還したと発表しました。

狂犬病は、死亡率100%といわれる恐ろしい病気です。

その感染源、症状、予防法から、犬に咬まれたときの処置。

さらには、今までの生存者や、今回の生還劇に採用された奇跡の治療法「ミルウォーキー・プロトコル」まで詳しく調べてみました。

 

狂犬病(きょうけんびょう)

ウイルス性の人獣共通感染症

水などを恐れるようになる特徴的な症状があるため、恐水病または恐水症と呼ばれることもあります。

 

日本では、1950年(昭和25年)に狂犬病予防法が施行され、犬の登録、予防注射、野犬等の抑留が徹底されたために、わずか7年で狂犬病が撲滅されました。

国内最後の発症例は、1956年。

6頭の発症が確認されて、1名が亡くなりました。

これ以降、国内では狂犬病の発症例はなく、海外旅行中に犬に咬まれ、帰国後に発症して亡くなった方が3名いるのみです。

1例目
1970年 ネパール旅行中の学生が犬に咬まれ、帰国後に発症。

2例目
2006年 フィリピン旅行中に京都市の60歳代・男性が犬に手を咬まれる。

帰国から約3か月後に発症し、風邪症状で病院を受診。

3日後に入院し、その4日後に狂犬病と診断が下り、その翌日には亡くなっています。

3例目
2006年 フィリピン旅行中に横浜市の60歳代・男性が犬に手を咬まれる。

帰国から約3か月後に発症し、風邪症状で病院を受診。

1週間後には人工呼吸器を装着され、その2週間後に亡くなっています。

 

日本では撲滅された狂犬病ですが、世界のほとんどの地域では依然として発生しており、いつ国外から国内に持ち込まれてもおかしくない状況です。

ちなみに、犬が人を咬んだ場合には、狂犬病感染の確認のために、捕獲されて2週間の係留観察が義務付けられています。

もしも、観察中に狂犬病の発症が確認された場合は、直ちに殺処分されてしまいます。

 

狂犬病の感染源

狂犬病ウイルスは人間を含む全ての哺乳類に感染し、犬以外にも、ネコやコウモリなどの野生動物から人に感染することもあります。

一般には感染した動物に咬まれた傷から、唾液が侵入してウイルスに感染する。

咬まれなくても、傷口や粘膜を舐められて感染することもあります。

 

通常、ヒトからヒトへ感染することはありませんので、爆発的に流行するということは考えられません。

ただし、角膜移植や臓器移植による感染例があります。

 

狂犬病の潜伏期間

一般的に約1~3ヶ月程度と言われています。

ウイルスが神経系を介して脳神経組織に到達すると発症するために、咬まれた箇所が脳に近いほど潜伏期間が短くなる傾向にあります。

つまり、同じ手を咬まれるのでも手の先よりも肩口の方が早く発症するということです。

脳から最も遠い足先を咬まれて、2年後に発症したという例もあるようです。(出典:厚生労働省)

 

狂犬病の症状

発症直後は風邪に似た症状。

実際に国内でも発症患者の多くは風邪症状で病院に受診しています。

潜伏期間が長いために、咬まれた傷は治っている場合が多いのですが、傷口に痒みなどの違和感や、熱感などがみられます。

最も特徴的な症状は、急性期に起こる恐水症状。

水などの液体を飲み干すときに、喉の下部が痙攣して強い痛みを感じるため、水を飲むことを極端に恐れるようになるのです。

そのために、喉が渇いても水を飲むことが出来ずに苦しみの中で亡くなる方も多いのです。

そして、水以外にも風に過敏に反応して極度に風を避けて、屋外に出ることも窓を開けることも怖がる、恐風症。

日光にも過敏に反応し、極度に避ける場合もあります。

 

また、ウイルスが脳神経を犯したことにより、不安感、興奮性、麻痺、幻覚、精神錯乱などの神経症状が現れます。

ただし、脳細胞自体が破壊されたわけではないために意識は明瞭であり、そのことが逆に症状の苦痛を増大させる結果となってしまいます。

 

狂犬病の死亡率

発症から非常に短期間(1週間程度)で全身の筋肉が麻痺し、昏睡状態に陥り、やがて呼吸障害によって死亡します。

発症後の有効な治療法はなく、その死亡率はほぼ100%とされています。

 

狂犬病の予防法

一度発症してしまえば有効な治療法がない狂犬病ですが、ワクチンの予防接種が有効であることがわかっています。

狂犬病の発症例が多い、アジアやアフリカ地域へ旅行する際にはワクチンを接種しておくと予防になります。

ただし、日本では狂犬病ワクチンの接種は承認されておらず、輸入ワクチンを自由診療で接種することになります。

 

とにかく海外では気軽に犬と接しない。

手を犬の顔の前に出さない。

手に傷口がある場合は手袋などで保護しておく。

などの注意をすることが最も大事です。

 

もしも犬に咬まれたら

死亡率100%といわれる狂犬病ですが、これはあくまでも発症した場合であって、ウイルスが体内に侵入し感染しても、発症しない場合もあります。

発症する可能性は傷の大きさや、感染したウイルスの量などによって異なり、32%~64%と幅広いものです。

ざっくり考えると、3人がウイルスを保有した犬に咬まれた場合、発症するのは1人か2人ということですね。

 

狂犬病は恐ろしい病気ですが、実はウイルスそのものは非常に感染力が弱いのです。

したがって、とにかく犬に咬まれたら、すぐに傷口を石鹸水でよく洗い、消毒液やエタノールで消毒することが最も重要です。

実は、たったこれだけの処置をするだけで、狂犬病のウイルスの大半は死滅するのです。

 

もちろん、これで安心できるわけではありません。

出来る限り早く、最寄りの最も大きな総合病院で受診しましょう。

そこでワクチンを接種します。

事前に予防接種を行っている場合と、行っていない場合とでは、咬まれた後に接種する回数が異なります。

また、予防接種をした時期によっても、異なるので予防接種をした場合は、その日付を記録に残しておくようにしましょう。

 

特に海外で咬まれた場合には、医療費や言葉の不安はありますが、一刻も早く医療機関で受診することが最善の策です。

帰国してから受診しようと思っても、その数日間が命取りになるかもしれません。

 

狂犬病からの生存者

狂犬病の発病者の中で、2004年10月以前までで記録に残っている生存者は全世界でわずかに5人。

この5人は、いずれも発病する前にワクチン接種を受けていました。

 

2004年10月 アメリカ合衆国ウィスコンシン州で、15歳の少女・ギーズが狂犬病の発病後に回復した6人目となりましたが、ワクチン接種を受けていませんでした。

ギーズは、史上初めてのワクチン接種なしによる生存者となったのです。

彼女に施された治療はミルウォーキー・プロトコルと呼ばれる、研究段階にある治療法でした。

 

ミルウォーキー・プロトコル

ウイルスから患者の脳を守るために化学的に昏睡状態に導き、抗ウイルス薬を投与したうえで、患者の免疫系が抗体を分泌してウイルスを撃退するという治療法。

ウイルスを撃退するまで患者の体が持ちこたえられるかどうか、また仮に回復したとしても麻痺が残るリスクが高いなど、リスクの高い治療法ですが、50名以上がこの治療を受けて6人が生存したそうです。

成功率は約1割。

普通に考えればリスクの高い治療法ですが、死亡率100%といわれる狂犬病においては、これでも高い生存率といえます。

まだ研究段階にあり、治療というよりも臨床実験であり、費用も高額で、ギーズがこの治療に費やした金額は、約80万ドル(約9000万円)だそうです。

 

ブラジルで2例目の生存者

今回の生存者である少年は、兄と妹も狂犬病で死亡しています。

そして彼も兄弟の死の直後である、2017年12月2日に、手のしびれを訴えて入院しました。

我が子が3人も立て続けに狂犬病に侵されるとは、ご両親のお気持ちは計り知れませんね。

少年の感染源は、狂犬病を発病したコウモリに咬まれたものと思われます。

そこで医師団が選んだ治療法が「ミルウォーキー・プロトコル」

見事に治療は効果を発揮して、生還を果たしました。

父親

「息子はまだ弱っているが、最悪の状況は脱した」

医師団

「症状をすぐに把握し、迅速に入院させたことが良かった」

 

実は、2008年10月、ブラジル・ペルナンブーコ州でも16歳の少年が、「ミルウォーキー・プロトコル」によって狂犬病から生還しています。

しかし、彼はいまだに歩行困難と発語困難により治療を続けているそうです。

 

いずれにしても命を取りとめたことは何よりです。

1日も早い回復を切に願います。


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