低酸素脳症の原因、対処法、治療法、予防法【加茂暁星高校での死亡事故の教訓は】

人間の体で最も大事なのは「脳」

なぜなら脳から出された指令によって、すべての体の動きが司られているからです。

手足を動かすような動作から、思考すること、記憶、判断などの知的作、そして息をするというような生命維持の働きまで、すべては脳が指令を出しているのです。

そして、この脳の活動を支えているのは、多量の酸素です。

もちろん、人間は酸素がなければ生きることが出来ませんが、特に脳は、身体全体で使う酸素量の4分の1を消費するといわれています。

多量の酸素を必要とする脳へ、十分な酸素が供給されなくなってしまい、脳に働きに障害が出た状態を「低酸素脳症」といいます。

一定の時間、脳に酸素が供給されないと、酸素供給が再開されたとしても、脳に損傷を受けて深刻な後遺症が出ることがあります。

出典:iori11.com

加茂暁星高校での死亡事故

先月、新潟県加茂市の加茂暁星高校で低酸素脳症により、野球部2年生の女子マネジャーが、亡くなるという痛ましい事故が起こっています。

同校によると、女子生徒は7月21日午後5時半すぎ、同校から約3・5キロ離れた野球場での練習に参加。午後7時半ごろに練習を終え、男子部員と一緒に走って学校に戻った直後、玄関前で倒れたという。

女子生徒は普段、球場を行き来する際は、用具などを積み込むマイクロバスに乗っていた。この日はけがをした部員がバスに乗るなどしたため、監督が「マネジャーはマイペースで走って帰るように」と指示していた。女子生徒が倒れた直後、駆けつけた監督は「呼吸は弱いけれどある」と判断し、救急車が来るまでの間、AED(自動体外式除細動器)は使用しなかったという。

女子生徒は救急搬送された病院で治療を受けていたが、5日午後6時すぎに亡くなった。加茂署は業務上過失致死の疑いも視野に、関係者から事情を聴く方針。同校は朝日新聞の取材に対し、「生徒のご家族には誠意を持って対応し、このようなことが起こらないように対策を取りたい」とコメントしている。
(出典:朝日新聞)

 

低酸素脳症の原因

脳に酸素が供給されなくなってしまう原因は次のようなものがあります。

心臓が停止した

具体的には、心筋梗塞・重症の不整脈などにより心臓が停止すると、脳に血液を送ることができません。

 

呼吸器に酸素を取り込めない

具体的には、気道閉塞・喘息発作・窒息、あるいは水に溺れた場合など。

呼吸器系に障害が起きたり、水中にいて酸素を取り込むことが出来ないと、心臓は動いているので血流はあるもの、血液中の酸素濃度が低下し、脳に酸素が供給されなくなります。

 

脳に損傷を受けた

事故などで頭に強い衝撃を受けて、脳に損傷を受けた場合も、血流が途絶えて酸素不足になることがあります。

 

重度の貧血

呼吸により肺に取りこまれた酸素は、肺から血液に入ります。

そして酸素は、血液の赤血球にあるヘモグロビンと結びつくことで脳に送られます。

つまり、脳に供給される酸素の量は、赤血球中のヘモグロビンの量が多いほど酸素は豊富に供給され、ヘモグロビンの量が少なければ、呼吸が正常に行われていても脳へ供給される酸素が少なくなります。

ところが、重度の貧血に陥ると、ヘモグロビン量が正常値よりも極端に減少します。

すると、脳に供給される酸素の量も減少し、脳全体に障害が起きるのです。

貧血気味の人は多いので、重大な病気という認識は薄いのですが、たかが貧血となめてはいけません。

 

一酸化炭素中毒

通常は空気中にわずか、0.000012%しか存在しない一酸化炭素ですが、燃焼器具の不完全燃焼などが原因で0.02%を超えると軽い頭痛を感じるようになります。

これが一酸化炭素中毒の始まりです。

この一酸化炭素は、酸素の200倍の速さでヘモグロビンと結合してしまいます。

そのため、空気中の一酸化炭素の濃度が高くなると、呼吸によって肺に取り込まれた酸素よりも早くヘモグロビンと結びついてしまいます。

結果的に、酸素とヘモグロビンが結びつくことが出来ずに、酸素が脳に供給されなくなります。

空気中の一酸化炭素濃度が1.16%に達すると、約2時間で死亡するといわれています。

 

毒物(シアン化物など)による呼吸障害

青酸カリなど、シアン化物の毒物を体内に取り込んでしまうと、血液中のヘモグロビンと結びつき、シアン化ヘモグロビンとなり、酸素の運搬を阻止します。

呼吸中枢を侵して呼吸麻痺を起こさせることで、酸素を脳に供給できなくなります。

 

その他の原因

低血糖症や、原因不明の急激な酸素不足により、低酸素脳症が起きることもあるようです。

 

胎児低酸素脳症

胎児や新生児に発生する低酸素脳症を「胎児低酸素脳症」といいます。

主な原因は

  • 染色体異常
  • 妊娠中に風疹にかかる
  • 妊娠中の喫煙
  • 妊娠中の薬物摂取
  • 分娩時の事故

 

「胎児低酸素脳症」になると、出産後に胎児への後遺症が出ます。

 

低酸素脳症の症状と後遺症

低酸素脳症を起こした場合、数秒間で意識がなくなります。

ここからは時間との戦いです。

成人ならば、2~3分程度なら酸素供給がなくても、命に別状はありませんし、回復も早いでしょう。

 

一般的には、リミットは3~5分。

酸素供給不足が5分以上続いた場合。

脳が徐々に損傷を受けて、脳細胞が壊死していきます。

脳細胞は皮膚などとは違って再生能力はありません。

一度壊死した脳細胞は二度と機能を回復することはありません。

つまり、その時点で起こった脳の障害は不可逆的な障害となります。

 

3~5分以内に酸素供給を再開できれば、脳細胞が死ぬことはなく、障害が出たとしても軽度なもので、その障害も改善できる範囲のものです。

具体的には、一時的に注意力や判断力の低下や運動障害など軽い障害が起こりますが、時間をかければ回復できますし、後遺症も改善できます。

 

低酸素脳症の治療

低酸素脳症の唯一の治療法は、一刻も早く酸素不足を解消すること、つまり酸素を供給することです。

心臓や呼吸が停止している場合は、心拍蘇生を行います。

必要に応じてAEDの使用も検討してください。

心拍が再開されれば、呼吸が回復し、脳への酸素供給もできるようになります。

 

低体温療法

一旦心肺停止が起きると、心臓が動き出した時に、高熱を発し、高血糖になることが多いそうです。

これを、「蘇生後脳症」といいます。

高熱・高血糖は脳症を悪化させるので、一時的に体温を下げる「低体温療法」を行います。低体温にして、脳の機能を低下させ、蘇生後脳症が進行するのを防ぎます。

 

ブドウ糖投与

低酸素脳症で生まれた新生児は、ブドウ糖を維持する働き弱く、ブドウ糖の供給ができなくなり、低血糖に陥ります。

そこで、ブドウ糖を投与することで低酸素脳症が悪化することを防ぎます。

 

低酸素脳症の予防

低酸素脳症は、突然生じますので、特定の予防が難しいです。

持病がある場合、持病が進行しないように健康管理に注意しましょう。

出産を希望する女性は、感染症に注意し、風疹免疫の検査を受けるようにしてください。

もちろん妊娠中の喫煙、過度のアルコール、薬物の摂取などは厳禁です。

 

突然、低酸素脳症になった場合の対処の仕方を自分も含めて家族など周囲に人たちが正しい知識をもって、適切な処置が出来るように準備しておくことが重要です。

 

加茂暁星高校事件の教訓

低酸素脳症による死亡事故ですが、なぜ低酸素脳症になったのかは不明のままです。

当時の状況が詳細にわからないので、ここで女子マネージャーに走ることを指示した監督を責めることが妥当なのかどうかの議論は避けたいと思います。

 

駆けつけた監督は、「弱いけれど、呼吸はある」として、救急車が来るまでAEDを使用したりなどの措置を施さなかった

この点についての判断は非常に難しい。

 

私は年に1回、AED使用の講習を受けます。

おそらく野球部の監督であれば講習は受けたことがあるはずです

 

手順は完全に理解していると思いますが、それでも呼吸がある状態で使うべきがどうか私でも迷うと思います。

しかし、AEDを使えば救えたかもしれない命を落とすことはあるわけです。

AEDは医療関係者ではない人でも使えるように、パッドの装着さえ正しくすれば、あとは機械が判断して指示を出してくれる。

「迷うならば使う」が原則だということが、この事件の教訓だったのではないでしょうか。

もちろん、あまりにも尊い代償を払ってしまったことは間違いありません。

改めて心よりご冥福をお祈りいたします


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